【25年7月】ADP雇用統計の速報値をデータから予想

ADP雇用統計の発表は、米国の労働市場と経済全体を測る重要な指標であり、影響力が非常に大きいものです。正確な予測を行うことで、市場の動向を事前に捉え、適切な取引戦略を構築することが可能です。 本記事では、構成データや先行指標を活用し、ADP雇用統計をどのように予測して取引に活かせるかを解説します。

目次

ADP雇用統計が取引において重要視される理由

ADP雇用統計は、米国の民間部門における雇用状況を月次で報告する重要な経済指標です。民間企業の給与計算データを元に作成され、労働市場の動向を示す先行指標として知られています。雇用統計の先行指数としても注目される他、それを補完するという意味でも重要視されています。幅広いマーケットに強く影響するため、多くのトレーダーがこの統計に注目します。

ADPの発表が市場予想を上回った場合、米ドルが買われやすくなり、逆に予想を下回ると米ドルが売られる傾向があります。これは強い雇用データがFRB の金融政策に影響を与えるからです。ADPの結果次第では、FRBが金利を引き上げる可能性が高まり、ドル高が進行することもあります。

一般的には以下のようになりやすいです。

  • 予想の上振れでドル買い(ドル円なら円安のロング⤴)
  • 予想の下振れでドル売り(ドル円なら円高のショート⤵)
  • 前回比較で前回より上昇でドル買い、前回より下落でドル売り
  • 予想通りだと値動きは発表ごとに異なる

ADP雇用統計は、通常毎月第1水曜日に発表されます。特に政府が発表する雇用統計の「NFP: 非農業部門雇用者数」よりも数日前に発表されるため、NFPの結果を予測するための材料として活用されています。

雇用統計との違い

・雇用統計(NFP)は、政府によって発表されるもので、農業以外のすべての雇用を対象としています。これに対して、ADP雇用統計は民間部門に焦点を当て、政府雇用や農業関連のデータは含まれません。

両者ともに労働市場の指標として重要視されますが、NFPは米国経済全体の雇用状況を示す一方、ADPは企業の民間雇用のみに注目する点で異なります。 NFPは政治的なコントロールが強いという見方が近年のコンセンサスに あり、注目度が高まっています。

注意したいのは、ADP雇用統計は今年こそそうでもありませんが、 非常に予想値との乖離が大きい経済指標です。元々雇用は不確定要素の変数が多く、雇用統計の非農業部門雇用者数も同様ですが、予想値の算出が困難です。下図のように、5万人から倍以上違うこともあります。

公表日時結果予想
2025年07月02日 (6月)99K
2025年06月04日 (5月)37K111K
2025年04月30日 (4月)62K114K
2025年04月02日 (3月)155K118K
2025年03月05日 (2月)77K141K
2025年02月05日 (1月)183K148K
2025年01月08日 (12月) 122K136K
2024年12月04日 (11月)146K166K
2024年10月30日 (10月)233K110K
2024年10月02日 (9月)143K124K
2024年09月05日 (8月)99K144K
2024年07月31日 (7月)122K147K
2024年07月03日 (6月)150K163K
2024年06月05日 (5月)152K173K
2024年05月01日 (4月)192K179K
2024年04月03日 (3月)184K148K
2024年03月06日 (2月)140K149K
2024年01月31日 (1月)107K145K
2024年01月04日 (12月)164K115K
2023年12月06日 (11月)103K130K
2023年11月01日 (10月)113K150K
2023年10月04日 (9月)89K153K
2023年08月30日 (8月)177K195K
2023年08月02日 (7月)324K189K
2023年07月06日 (6月)497K228K
2023年06月01日 (5月)278K170K
2023年05月03日 (4月)296K148K
2023年04月05日 (3月)145K200K
2023年03月08日 (2月)242K200K
2023年02月01日 (1月)106K178K

ボラティリティに注意すると共に、スプレッドこそ気にしなければなりませんが、優位なポジションを取れるチャンスがある日が稀にあります。

ADP雇用統計の予測に役立つデータ

ADP雇用統計を正確に予測するためには、いくつかの先行指標が役立ちます。 これらの指標を複合的に分析することで、ADPの結果をより精緻に予測でき、 FX市場での取引戦略に活かすことが可能です。

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ISM製造業・非製造業指数の雇用指数

ISM(米国供給管理協会)が発表する製造業および非製造業の指数は、経済全体の雇用動向を推し量る上で重要な指標です。 特にその中で雇用指数は、企業がどの程度新たな雇用を創出しているか、もしくは従業員の数を減らしているかを反映します。製造業、非製造業それぞれの雇用指数を確認することで、ADP雇用統計の動向を予測します。 まずは各雇用指数のデータです。

公表日時結果予想
2025年07月01日 (6月)45.0
2025年06月02日 (5月)46.8
2025年05月01日 (4月)46.5
2025年04月01日 (3月)44.7
2025年03月04日 (2月)47.6 
2025年02月04日 (1月)50.347.8
2025年01月04日 (12月)45.348.0
2024年12月03日 (11月)48.1 
2024年11月01日 (10月)44.445.0
2024年10月01日 (9月)43.947.0
ISM製造業雇用者数

ISM雇用者数は製造業、非製造業ともに雇用統計と整合性が薄れているとの米アナリストの意見がありました。参考にして検討の材料とするぐらいに留めたほうがいいかなと思いますが、最新データ6月の雇用は悪化を示し昨年以来の45です。

公表日時結果予想
2025年07月03日 (6月)未発表
2025年06月04日 (5月)50.749.0
2025年05月05日 (4月)49.047.0
2025年04月03日 (3月)46.2
2025年03月06日 (2月)53.9 
2025年02月06日 (1月)52.3 
2025年01月08日 (12月)51.451.4
2024年12月05日 (11月)51.553.0
2024年11月06日 (10月)53.048.0
ISM非製造業雇用指数

非製造業は明日に発表されます。予想値は未発表です。5月データの回復で前回雇用統計はの¨速報値は¨上振れています。また下方修正があると思いますが、数値上は3月からの回復傾向で6月を迎えます。

新規失業保険申請件数

公表日時結果予想
2025年07月10日  
2025年07月03日 239K
2025年06月26日236K244K
2025年06月18日245K246K
2025年06月12日248K242K
2025年06月05日247K236K
2025年05月29日240K229K
2025年05月22日227K230K
2025年05月15日229K229K
2025年05月08日228K231K
2025年05月01日241K224K
2025年04月24日222K222K
2025年04月17日215K225K
2025年04月10日223K223K
2025年04月03日219K225K

新規失業保険申請件数の12月は平均で22.6万、1月は21.1万、2月は22.3万、3月は22.2万、4月は21.9万、5月は23.3万、6月は24.4万と推移しています。5月の大きな悪化と6月の更なる悪化となっています。今週末金曜日の雇用統計の算出期間週では24.8万人とこれまでに比べるとかなり悪い数値です。月初めからの悪化は雇用統計にとっては最悪な算出期間でしょう。

続いて失業保険継続申請件数です。失業者が失業保険を継続的に申請しなければいけないということは、求人の少なさを表します。

公表日時結果予想
2025年07月10日  
2025年07月03日  
2025年06月26日1,974K1,950K
2025年06月18日1,945K1,940K
2025年06月12日1,956K1,910K
2025年06月05日1,904K1,910K
2025年05月29日1,919K1,890K
2025年05月22日1,903K1,890K
2025年05月15日1,881K1,890K
2025年05月08日1,879K1,890K
2025年05月01日1,916K1,860K
2025年04月24日1,841K1,880K
2025年04月17日1,885K1,870K
2025年04月10日1,850K1,880K
2025年04月03日1,903K1,860K

12月は平均で1,885kに対し、1月は1.865kと大きく改善し、2月平均は1.866k、3月平均は1.878k、4月平均は1.869、5月平均は1.899、6月の平均は1.944とこれまで今年で最悪となっています。データの比較としても5月より大きく悪化しています。失業率の悪化にも関係してきます。雇用関係は今週もあまり良くないかもしれません。

JOLTS求人件数

JOLTSは、求人件数や労働者の離職・転職率を示す指標です。 このデータが高ければ、労働市場において求人が多く、雇用が増加する兆しと捉えられます。ADP雇用統計が好調な結果になる場合、この指標も事前に上昇 する傾向があります。

スクロールできます
CategoryJob openingsHiresTotal separations
May
2024
Apr.
2025
May
2025(p)
May
2024
Apr.
2025
May
2025(p)
May
2024
Apr.
2025
May
2025(p)
LEVELS BY INDUSTRY
(in thousands)
Total7,9017,3957,7695,5735,6155,5035,3145,3135,242
Total private6,8526,5626,9365,2045,2595,1644,9664,9814,892
Mining and logging242619182419222218
Construction375242245390364361369357368
Manufacturing576392414350330278345316287
Durable goods405257289207194161204183162
Nondurable goods171135125143136117142134125
Trade, transportation, and utilities9851,0369981,0619791,0051,0649381,025
Wholesale trade167203176151130136153120132
Retail trade487561490632575581639555601
Transportation, warehousing, and utilities331272332278274288272263292
Information128165159828977837878
Financial activities448418476210217223196239199
Finance and insurance339283374132144145115169127
Real estate and rental and leasing109135102777377807172
Professional and business services1,3021,3861,3581,0271,1121,0659481,0631,005
Private education and health services1,8591,7161,763879882799805795725
Private educational services1851681579699931029188
Health care and social assistance1,6741,5471,607783783706703704637
Leisure and hospitality8719141,1939571,0371,1589249551,011
Arts, entertainment, and recreation139188151178183197152168169
Accommodation and food services7327271,041779854961771787842
Other services284267310231225179211217175
Government1,049833834369357339348333350
Federal16912889363322334339
State and local879705745332324317315290311
State and local education265242261161165145179150155
State and local, excluding education614462484172159172137140156

昨日発表されたJOLTSが遅行指数で5月の結果です。求人が上振れて円安に動きました。しかし雇用は安心できません。求人こそ拡大しましたが、内訳では雇用は減少しています。上記で赤く示した部分です。失業は若干減少して回復しています。

JOLTSは4月分の発表で求人件数は19万1000件増の739万1000件でした。求人は回復しています。4月は解雇も増加しましたが、解雇が多かった月です。参考まで。

雇用コスト指数

雇用コスト指数(ECI)は、労働者への賃金や福利厚生費の上昇を示す指標です。 雇用コストの増加は、企業が労働力を確保するために競争していることを反映しており、労働市場が引き締まっていることを示唆します。

第1四半期までの発表です。若干悪化しています。

データ期間前期比
予想結果前回改定値
2025年第1四半期1.0%0.9%
2024年第4四半期0.9%0.9%
2024年第3四半期1.0%0.8%
2024年第2四半期1.0%0.9%

景況感のデータ

景況感は、各地域や産業における経済活動の状況を示す指標であり、労働市場にも影響を及ぼします。 消費者信頼感指数は、消費者が経済に対してどの程度の信頼を持っているかを測るもので、景気全体を反映します。消費者の自信が高ければ、企業が拡大を図り、雇用を増加させる可能性が高くなります。このため、ADP雇用統計に対してもポジティブな影響を与えると考えられます。

公表日時結果予想前回
2025年06月24日 (6月)93.099.4 98.0
2025年05月27日 (5月)98.087.185.7
2025年04月29日 (4月)86.087.793.9
2025年03月25日 (3月)92.994.2100.1
2025年02月26日 (2月)98.3102.7105.3

米CB消費者信頼感指数は、再び下落しました。5月がよかったのはトランプ政権の関税緩和の宣言後の集計というところがあります。6月の消費者マインドはあまりよくないです。

ADP雇用統計の構成データについて更に詳しく

ADP雇用統計の特徴

ADP雇用統計は、給与処理会社であるADPが独自に集めたデータを基に作成されています。以下の特徴があります。

  • 民間企業の給与データに基づく
     主に給与処理業務を受託している企業が対象であり、正確な給与支払いデータを基に雇用状況を把握しています。貧困層に多い非正規雇用やインフォーマルセクター(給与記録が正式に残らない仕事)は、統計に反映されにくい可能性があります。
  • 対象が「民間部門」のみに限定
     政府職員や一部の特殊な雇用形態は含まれません。

NFP(非農業部門雇用者数)の特徴(雇用統計)

NFPは米国労働省の労働統計局(BLS)が実施する「現行雇用統計調査 (CES)」に基づいています。以下の特徴があります。

  • より包括的な調査
     民間部門だけでなく、政府部門(ただし農業を除く)も含まれます。
  • サンプル調査形式
     雇用者数のサンプル調査に基づいており、賃金データや産業別データも含まれます。貧困層に多い非正規雇用もある程度カバーしますが、インフォ ーマルセクターは必ずしも完全に含まれるわけではありません。

貧困層へのカバー範囲

 ADPとNFPのいずれも、完全にはインフォーマルセクターや最も貧困な層の雇用状況を反映していません。ただし、NFPの方が政府職員なども含むため、よ り包括的である可能性が高いです。ADPのデータは給与記録を基にしているた め、正式な雇用契約がない個人事業主や、給与処理を委託していない小規模な事業所は対象外になることがあります。 したがって、貧困層へのデータカバー範囲が広いかどうかは、ADPよりもNFP の方が優位性があると推測できます。

これは日々のニュースを読み解く上で重要です。昨年の夏はハリケーン の影響で雇用統計のNFPは大きく下落しましたが、ADPは違いました。自然災害やストライキの影響を受けにくいとの見解もありま す。ADPの予想の尺度が上がります。今回はあまりニュースには上がっていません。

アメリカ西部のロサンゼルス近郊で起きた一連の山火事は1月の発生から3週間余りを経て鎮圧。小売売上高の悪化に影響していた。1月分の前回雇用統計が悪かったのも影響ありますが、一定の回復があるかと思われます。

前回結果の内訳

5月データ
4月データ
3月データ

ADPで顕著に見られるのは、大企業の減少傾向です。プラス圏からマイナス圏に入りました。これまで支えられてきた大企業による雇用が減少していることは打撃が大きいと思われます。

ADP雇用統計と過去の値動き(日足と1分足)クリックで拡大

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現在のドル円相場を分析

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まとめ

いかがだったでしょうか。

雇用は変数が多く、予想が難しいので本指数や雇用統計が大きく乖離のあることは常です。ボラティリティに注意しなければなりません。

私としては今回のADP雇用統計は下振れの予想です。JOLTSで求人の回復はありましたが雇用は減少傾向です。前回のADPが約2年ぶり低水準ということで多少の反発はあるかもしれませんが、失業保険の申請状況を加味すると大きな改善は難しそうです。悪ければ、トランプ発言で回復していないドル安がさらにドル安の可能性もあります。

さらに内訳を確認して、雇用統計の先行指数として注目したいです。

皆様の利益を願っております。

DAKURA

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